湖上にて

よしなしごと

名古屋たびのきろく2

2021/06/01 18:00

名古屋、伏見駅の3番出口にて、幼なじみとおよそ半年ぶりの再会を果たす。そのまま夕飯を共にするために歩き出し、テンションが上がりすぎて店の外観を撮り損ねたが、伏見駅の近くにある「島正」というお店へ向かった。

せっかくなのでアルコールといきたいところだったが、このご時世では飲めないのでコーラで。いわゆる「名古屋飯」を単品でいろいろと楽しんだが、どれも味噌が染みていて最高だった!

「みそおでん」f:id:nekzame:20210602222717j:image

「どてオムライス」f:id:nekzame:20210602222723j:image

 

その後、幼なじみが占いに行きたいと言うので付き添いとして行くことに。

だが、元来スピリチュアルなものを全く信じていない私は、20分5000円という金額を聞いてさりげなく異議を唱えた。しかし、田舎に隔離されて悩んでいる新卒一年目、幼なじみの強い主張を前にそれはあっけなく折れたのであった。


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結局、初回限定料金やらお試し体験やらで私は10分間のみの合計1000円で済んだため、財布の傷は浅かった。幼なじみにも割引が適応されたが、20分にさらに延長を重ね、彼女はしっかり5000円を支払っていた。自分の占いもさることながら、隣で30分ほど他人の占われている姿を見ているというのもなかなか面白いものだ。

そして何より、私は占いを完全に舐めていた。というより、占い師を舐めていた。「見えます」というのは本当に最後まで訳が分からなかったが、私の思想や幼なじみの職場の情景などを見事に言い当ててくるのだ。人間の心理は身体や動きにも現れると言われているので、占いもつまるところは究極の観察眼か心理学かと思っていたが、こちらが特に話しても反応してもいない事柄について積極的に触れてくるのには驚いた。

そして、思っていた以上に占い師がペラペラと喋るのである。幼なじみと二人で同じ部屋に入り、一人ずつ占ってもらう形式だったのだが、開幕と同時にこちらが悩みを30秒ほど話した後は、文字通りずっと占い師のターンである。名前や生年月日から我々の背景を当てていくといった感じで、外しかけたら軌道修正という感じもなくはなかったが、それが非常に自然な運びなので「当たっている」ように感じる。幼なじみが途中から「先生、私の未来が見えますか!?」「すごい!!!」と前のめりになって延長料金を重ねる様子は心から恐ろしかったが、あの占い師の腕前は確かにすごい。何より、めちゃくちゃ褒めてくれるので普通に癒されてしまった。対人関係において見習いたいところがある。

 

幼なじみのハイにつられて楽しくなってしまい、0時近くまで占いについて語り合いながら街をぶらつき、適当に見つけた安いビジネスホテルに泊まった。

セミダブルでいいですか」と尋ねるホテルマンに、まぁちょっと恥ずかしいけどいいかと思いながら確認しようとした瞬間、隣から発せられた「ツインの部屋は本当にもうありませんか??」という幼なじみのクソでかい声に全てを掻き消された。ホテルマンが調べてみると奇跡的にツインの部屋が1部屋だけ残っていた。なんとなく心に残る寂しさとともに会計をしていると、お釣りもまだ貰っていない頃に幼なじみがエレベーターに駆けて行き、「ひらく」ボタンを押して待機していた。職業病だろうかとぼんやり思いながら、小走りで乗り込みツインの部屋へ。

 

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幼なじみが風呂に入っている間、ひとりでに開催した小さな宴。彼女とは長い付き合いになるが、食べ物を食べる速度と入浴の速度だけは昔から本当に合わない。幼なじみが遅すぎるのか、私が早すぎるのか。それは誰にもわからない。

長風呂から上がった幼なじみは、いちごミルクを飲みながらいちごミルクプリンを食べていた。さっきミニストップの白桃パフェも食べたところだろう。味の好みもそれなりに違う気がしてきたが、これに関しては、私が甘いものが極端に苦手というだけかもしれない。

宴の後はツインのベッドにそれぞれ寝転び、また他愛無い話を繰り広げながら同じタイミングで沈黙が訪れ、その瞬間にお互いが眠りについた。

 

2021/06/02

6時半。自力で起きられず幼なじみに叩き起こしてもらい、無事にチェックアウトを済ます。そのまま近くの喫茶店へ。

名古屋では喫茶店が有名らしく、いつもの私なら朝食より睡眠を優先するところだが、幼なじみの強い推しもあってこの日は「KAKO 花車本店」にてモーニングを食べた。

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ここで過ごしたひと時は、名古屋に来てから最も幸せな時間だったと言っても過言ではないかもしれない。

ぶっきらぼうかと思いきや温もりのあるマスター、声の少し高い目元のやさしい店員さん。ステンドグラスから漏れる灯りでほのかに明るい店内には、いろんなお客さんがモーニングに集まっていた。

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私は「ブレンドコーヒー」と「クリームチーズコンフィチュール」を注文。

まずはブレンドコーヒーを一口啜って驚く。ここ最近は缶コーヒーばかり飲んでいたというのもあるが、それにしても美味しすぎる。深い後味と香りが胸いっぱいに広がって心地いい。それだけで美しい朝のはじまりという予感がする。

コンフィチュールというのは、果肉感の強いジャムみたいなもので、私が注文したものはトーストの上にクリームチーズとコンフィチュールが乗っていた。左上から時計回りに、パイナップル、よもぎ、甘夏みかん(おそらく)、林檎みたいな味のやつ(名称不明)。マスターがひとつひとつ説明してくれたのだが、何度聞いても林檎みたいなやつの名前が理解できなかった。自分の寝ぼけ頭の悪さを呪ったが、そんなことがどうでもよくなるほど美味しかった。幼なじみは、クリームチーズではなく、生クリームと小倉の乗ったコンフィチュールを食べていた。他にも2種類ほどトッピングが用意されており、生クリームやあんこ系の甘さが苦手な人でも幸せになれるメニューだった。

「いってらっしゃい、がんばって、役にたってくるんだよ」

何かしらの知的障害を抱えていると見えた先客が席を立ち、マスターがやさしい声で見送った。おぼつかない返事をして笑ったあの人は、このあと仕事にいくのだろうか。

抗がん剤もう飲まなくてよくなったんですよ」

隣にどかっと腰掛けたスーツの人が嬉しそうに話していた。そりゃよかったと微笑みながらコーヒーを手早く淹れるマスター。

注文が到着してから、幼なじみとはなぜか一言も交わさなかったので周囲の声がよく聞こえた。ゆっくりと、それでいてしっかりと、日常がはじまる音。私がつまづいて休職している間にも、歯車は回り続けている。取り残されている寂しさと同時に、いつか私も変われるかもしれないという希望が込み上げてきた。

 

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茶店を出た後は、買い物をするために名古屋を歩き回った。山奥で暮らす幼なじみは、ここぞとばかりに買い物をしていて気持ちがよかった。セブンイレブンに感動しておかずを買いだめし、ビックカメラAirPods Proを購入し、iTunesカードを1万円ぶんチャージしていた。

12時頃、気づけば互いの帰りの電車の時間が近づき、名古屋駅でさっくりと解散した。

慌ただしく去っていく幼なじみ。次に会えるのはいつになるのだろう。その頃には、23才を焦って笑っていたことも懐かしくなってしまうのだろうか。

 

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帰りの新幹線の中では、ひれ味噌カツ弁当を食べた。新大阪まで1時間程度、旅はこんなにもあっけなく終わってしまう。土産に名古屋のご当地ビールを買ったはいいものの、この足で心療内科に行かなければならないことを既の所で思い出し、蓋は開けずにリュックサックの中にしまった。

こんな6月のはじまり。私はこれから、社会復帰に向けて心を調律しなければならない。

苦しいこともあるだろう、でも大切な何かが変わるような予感がする。