湖上にて

よしなしごと

名古屋たびのきろく1

2021/05/31

茶臼山高原のホテルで忙しく働いている幼なじみから、珍しく三連休が取れたとのことで電話がかかってきた。

4時間ほどの他愛無い会話の末、翌日に友人が名古屋まで出てくるいう話を聞き、私は凄まじい衝動に駆られた。その時にはもう19時だったが、その場で翌朝のバスを予約し名古屋へ行くことを決意。

これは、その弾丸旅行に関する瑣末な記録である。

 

ところで、茶臼山高原とは、愛知県北部の果てにある芝桜で有名な高原だ。

幼なじみが住む寮からは、コンビニまで車で片道1時間、スーパーまで片道2時間、送迎バスと電車を乗り継いで名古屋まで片道3〜4時間、子牛や鹿の群れまでは徒歩30秒という、びっくら大地のド田舎である。

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しかも幼なじみは車を持っておらず、日用品を買うとなれば先輩に足を頼み込むしかない。大阪で生まれ育った私には想像もつかないその暮らし。同期や友人と物理的に会えず、大自然によって閉鎖された孤独な毎日、職場の裏で蔓延る闇。

電話ではなく直接話して、都会でバカみたいに遊んで、少しでもあいつの気分転換になればいいと思った。

ない金を多少失ったが、一切の後悔もしていない。

 

 

2021/06/01

6時起床に悶え、予約していたバスに2分遅れで乗車する。早朝から汗を滴らせ、焦りすぎて検温とアルコール消毒をスルーしようとして運転手に苦笑される。

また、途中のサービスエリアでグミを大量購入し、車内を一時的に甘い匂いで満たしてしまうなど、乗客には非常に申し訳ないことをしてしまった。

そんなこんなで、特に反省もせず三重県を通り越し、名古屋へ到着。その間およそ3時間。

 

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着くや否や、真っ先に向かったのは「味噌にこみ たから」という味噌煮込みうどんのお店。幼なじみと合流するのは夜になるうえ、あいつは味噌煮込みうどんアンチなので、これはひとりで食うしかない。

それに、意外と知られていないがひとりで食う昼飯は美味い。

12時前と少し早い時間であり、平日なので特に並ぶこともなく入店。

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外が蒸し暑い中、アツアツの「玉子にこみうどん」を注文。汗だくになりながら汁まで完食。

ただひたすらに美味しかった。だが、困ったことに汗が止まらない。このままではお会計に行けないと思った私は、生まれて初めて店のおしぼりで顔を拭いた。

ひいばあちゃんの家のようなやさしい店内に流れるクラシック、和やかな店主と店員の会話、客の談笑の影、それはもう密かにサッと顔を一拭きしたのであった。

なけなしの名誉のためにこれだけは言わせてもらうが、おでこと鼻の下を軽く拭いただけである。

 

無事に会計を終え事なきを得た私は、名古屋の街並みを散策することにした。

しかし、間もなく口内に違和感を覚え始める。若干の猫舌でありながら食い意地が張っている私は、熱いものを食べるとほぼ百発百中で口内を火傷するのだが、今回も例に漏れず、味噌煮込みうどんにより舌を負傷してしまったようだ。

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耐え切れずコンビニでアイスボックスを購入。

舌の上で入念に転がしながら完食するも、ヒリヒリとした痛みは悪化。

だが、コンクリートの照り返しの中で食べるアイスボックスは美味すぎるので、すべて良しとした。

 

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14時頃、海が見たかったのでふと名古屋港へ。名古屋から電車で20分ほどで海に行けるっていいよね。

そして思い出す。名古屋港水族館という、水族館好きにも高く評価されている(たぶん)スポットがあるということに。

しかし。様々な出来事をひとり○○へと昇華させてきた私でも、ひとりで水族館に入館したことはなかった。臆して情けなく炸裂した方向音痴により、チケットを買う場所すら分からない。ここかな?と思ってみても、ひとり水族館への恐れのせいでもう万物に対して勇気が出ない。

10分ほど、海を眺める切なさを演じながら港を往復していたが、ふと現れたカップルを追いかけて悠々と階段を上り、無事にチケットを購入した。

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いざ。

大阪弁が目立つとなんとなく恥ずかしいので、モソモソとスタッフさんに礼を言いながら入館。

 

※以下、名古屋港水族館内の写真を含む、ネタバレありのレビューとなります。※

※少し魚が好きなだけで、水族館マニアのレビューではありませんのでご注意ください。※

※ショーの内容に関するネタバレはございません。※

 

 

この水族館は水中の美しさを見事に表現している。

波の揺らめきを日差しが透過し、暗い館内の床や壁にはあちこちと水面の影が落ちている。まるで自分が海の中にいるような気分だった。時期と時間帯のためにお客さんがほとんどおらず、ひとりだということもあっていつもより五感が鋭くなっていたのかもしれないが、こんなにも美しい水族館は今まで見たことがない。

水槽内のライトや色合いも非常に美しい。珊瑚の種類や配置等もかなり工夫されていると見えた。

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そして、この水族館では視覚だけでなく聴覚までもが心地いい。館内の一歩目がイルカの水槽というのも珍しいと思うが、ここでは微かにイルカたちの鳴き声が聴こえるのだ(幻聴だったらすみません)。水槽の向こうから声がするという感動に、しばらく立ち尽くしてしまった。

おそらくタイミングのすれ違いで見当たらなかったが、看板の表示から察するに、ここにシャチがいる時もあるのだろう。

 

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写真が絶望的に下手だが、ベルーガ(シロイルカ)を見た時は感動にうち震えて動けなかった。私にはシロイルカという名前が馴染んでおり、ベルーガという別名は初めて聞いたのだが、地元のお客さんらしき人々の口から発せられるそれには、愛しさと親しみが感じられた。また、ベルーガのショーもあるようで、それはさぞかし可愛いらしいだろうなと頬が緩んだ。

図鑑の外で初めて見たと思いネットで調べてみたところ、ベルーガに会える水族館は日本に4つしかないとのこと。たしかに他の3つの水族館は一度も行ったことがない。

鴨川シーワールド(千葉県)、八景島シーパラダイス(神奈川県)、上越市立水族博物館 うみがたり(新潟県)、名古屋港水族館(愛知県)

 

 

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トラザメ。わりと多くの水族館で飼育されている種だとは思うが、こんなにじっくりと間近で見たのは初めてである。私は、サメの中でも海の底にペタッと這っているサメが大好きだ。

 

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また、水の上から魚を見るという楽しさも見落とさない。他の水族館でもよく見られる光景ではあるが、この名古屋港水族館では大きな水槽を上から見ることができる。

何がいるかはあんまり分からないのだが、ぼんやりと見える魚たちの影や、エイが水面をバシャバシャするところを見ていると非常にわくわくする。 

 

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かわいい

 

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シャチがいる水族館は、現在は名古屋港水族館を含めて日本に2つしかないため、シャチに会えるというのはこれとなく貴重な機会である。もう1つは鴨川シーワールド(千葉県)なので大阪からはそれなりに遠く、私がシャチに会うなら名古屋港水族館が手堅いだろう。

だが、私にはいつか一緒にここに来ようと約束した人がいるため、ベルーガのショーもそうだが、シャチのショーも敢えて一切観ずに帰った。この写真に映っているのは休憩中のシャチである。本当はシャチを見るのも楽しみにとっておこうと思っていたが、たまたま見つけちゃった。


そのため、シャチについては言及できかねるが、イルカ好き&ウミガメ好きには文句なくおすすめできる水族館である。

もちろん、魚好きにもおすすめだ。寝不足と度の低いメガネをかけていたせいで解説の看板を読み込めなかったが、特に深海コーナーはアツかった。昭和基地エリアも当然興奮したし、クラゲコーナーもあのコンパクトさであの濃密さ。常設展示のレベルが高く、それぞれに飽きさせない工夫が施されている。親しみの持てる展示も多く、魚に詳しくない人でもきっと楽しめるだろう。すっきりと回ることができ、すべてに愛を感じた。

人に旅を強制するのは主義に反するが、ここは死ぬまでに一度は訪れた方がいいかもしれない。私もあと20回は行きたい。

 

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